溶血性貧血診断のフローチャート


Diag


 血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接Coombs試験を行い、陽性の場合は特異的
Coombs試験で赤血球上のIgGと補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素やPCHの鑑別
のため、寒冷凝集素価測定とD-L試験をおこなう。
(亀崎豊実: 内科疾患の診断基準・病型分類・重症度 溶血性貧血. 内科2015;115:1304-1307.



免疫性溶血性貧血診断のフローチャート(改訂案)

HAflowc

 2017年に英国血液学会が発表した免疫性溶血性貧血の診断フローチャート*では、特異的直接Coombs試験でIgGのみ 陽性の場合は
温式AIHAを疑い、C3d±IgGの場合はCADを疑って室温での直接凝集試験(direct agglutination test: DAggT)を行うことが提唱されている。
DAggT陽性かつ寒冷凝集素価が60倍以上であればCADと診断し、DAggT陰性の場合は病的意義のない寒冷凝集素として取り扱われる。
DAggTや寒冷凝集素価測定に用いる血清は37℃以上での分離が重要であると強調されている。また、直接Coombs試験陰性であっても
AIHAが疑われる場合は、 試験管法に加えてカラム法によるCoombs試験再検やIgM/IgA特異的Coombs試験、ヘモグロビン尿のある
小児例ではDonath-Landsteiner試験、赤血球解離液での間接Coombs試験の施行が推奨されている。従来提示していた免疫性溶血性
貧血の診断フローチャートの改訂案を上図に示す。低力価寒冷凝集素症(low titer CAD)については, 英国血液学会のフローチャートに記載はないが,
わが国からの報告が散見されることから改訂案には残している. Low titer CAD診断においては, Coombs陰性(温式)AIHAの可能性も考慮すべきである。
(亀崎豊実: “貧血”の読み方・捉え方 2.実践編:貧血の検査データの読み方 症例B(溶血性貧血). Medical Technology 2018. )
*Hill QA, Stamps R, Massey E, et al.: British Society for Haematology. The diagnosis and management of primary autoimmune haemolytic anaemia.
Br. J. Haematol.,176(3):395-411, 2017.


寒冷凝集素症 Cold agglutinin disease: CAD
寒冷誘発性の溶血を認め、直接クームス試験で補体成分(C3d)が検出される場合は、冷式AIHAを疑い、
寒冷凝集素価(4℃)ならびにDonath-Landsteiner試験をおこなう。
寒冷凝集素が64倍以上であれば、寒冷凝集素症の可能性があり、悪性腫瘍や感染症が否定されるとCAD
と診断される。基礎疾患が認められる2次性の場合はCAS(Cold Agglutinin Syndrome : CAS)と診断する。
冷式抗体の検査では、採血時から検体を37℃-38℃に保温して血清分離を行うことが重要である。
Berentsen S. How I manage patients with cold agglutinin disease. Br J Haematol 181(3):320-330, 2018.

* 低力価寒冷凝集素症
low titer cold agglutinin disease
 寒冷凝集素は、30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査と
して、患者血清(もしくは血漿:37〜40℃下で分離)と生食(もしくは22%アルブミン液)に懸濁したO型
赤血球を混和し、室温(20〜25℃)に30-60分放置後、遠心し凝集を観察する。凝集が認められない
場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。
 凝集が見られた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。37℃、30℃、室温(20〜25℃)、4℃での
凝集素価を生食法(もしくはアルブミン法)で測定する。すなわち、生食(もしくは22%アルブミン液)で倍
々希釈した患者血清と生食(もしくは22%アルブミン液)で3%に調整したO型赤血球を混和し、37℃で30
分静置後、遠心し凝集を観察する。凝集の認められた最高希釈倍率を37℃での寒冷凝集素価とする。その
後、30度に30分静置後、同様に凝集素価を測定する。室温、4℃でも同様に凝集素価を測定する。
アルブミン法では、生食の代わりに22%アルブミン液を用いて血清と赤血球の希釈を行う。 
 寒冷凝集素価の上昇が軽度(<1000倍)であったり正常範囲内であっても、寒冷曝露に伴う溶血が疑われ
る場合は、温度作動域の検討を行うと、30℃以上での凝集が認められることがあり、病的な意義のある寒
冷凝集素と判断される。低力価であり温度作動域が拡大している症例(低力価寒冷凝集素症)では、ステ
ロイド治療が有効な症例が報告されている*。生食法に加えてアルブミン法を行うと検出感度が高くなり、
凝集素価の上昇も認められることがある。
*Schreiber AD, Herskovitz BS, Goldwein M: Low-titer cold-hemagglutinin disease:Mechanism of
 hemolysis and response to corticosteroids. N Engl J Med 296:1490-1494, 1977. 26.
 Lahav M, Rosenberg I, Wysenbeek AJ. Steroid-responsive idiopathic cold agglutinin disease:
 a case report. Acta Haematol 81:166-168, 1989.

寒冷凝集素:温度作動域測定マニュアル(2015.1.16)
 検体
  患者血清(又は血漿)5ml:37-40℃で分離
  O型健常人(EDTAもしくはヘパリン)血液5ml(検査血球として使用)

 寒冷凝集素スクリーニング検査
  寒冷凝集素は、30℃以上で凝集活性がある場合に病的意義があるとされる。
 1. 患者血清(37〜40℃下で分離)
 2. O型赤血球をPBSで4回洗浄後、PBS(もしくは22%アルブミン液)で3%濃度に懸濁
 3. 1.血清2滴と2.血球1滴を混和、室温(20〜25℃)に30-60分放置
 4. 遠心後、凝集を観察する。
 *凝集が認められない場合は、病的意義のない寒冷凝集素とし終了。
 *凝集が見られた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。

 寒冷凝集素温度作動域測定
 1. 37℃、30℃、室温(20〜25℃)、4℃での凝集素価を生食法(もしくはアルブミン法)で測定する。
 2. 患者血清を生食(もしくは22%アルブミン液)で倍々希釈
 3. O型赤血球を生食(もしくは22%アルブミン液)で3%に調整
 4. 2.血清2滴と3.血球1滴を混和、37℃で30-60分静置
 5. 遠心後速やかに37℃恒温槽に静置し凝集を観察する。(もしくは、2時間静置後凝集を観察する)
  * 凝集の認められた最高希釈倍率:その温度での寒冷凝集素価  
 6. その後、30℃に30-60分静置後、同様に凝集素価を測定する。
 7. 室温、4℃(30-60分またはオーバーナイト)でも同様に凝集素価を測定する。
  * アルブミン法では、生食の代わりに22%アルブミン液を用いて血清と赤血球の希釈を行う。
  * 寒冷凝集素スクリーニング検査ならびに温度作動域の測定は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。


Reference
Issitt PD. Serological Diagnosis and Characterization of the Causative Autoantibodies.In: Chaplin H, ed. Immune Hemolytic Anemias (Methods in Hematology), Churchill Livingstone;1985.p27-35.

Petz LD, Garratty G. The serologic Investigation of autoimmune hemolytic anemia. In: Petz LD,Garratty G, editors. Immune Hemolytic Anemias. Philadelphia: Churchill Livingstone; 2004. pp 220–222.


Donath-Landsteiner抗体(二相性溶血素)
 DL抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。
血液検体としてPNH血球や酵素処理血球を用いると感度が高くなるとされている。患者血液で行う直接DL
試験*と患者血清中のDL抗体を証明する間接DL試験**がある。
 *直接DL試験
  患者血液5ml(抗凝固剤未添加)2本採血し、それぞれ0℃、37℃に30分静置後、2本とも37℃30分静置し、
  1000g,5分遠心し、冷却分のみ溶血が認められれば、DL抗体陽性とする。
     DL test
             (豊辻智則, 亀崎豊実, 梶井英治. 専門医に紹介すべき貧血 自己免疫性溶血性貧血. Mebio 28(9):72-81,2011. )

 **間接DL試験
  37℃で分離した患者血清を準備。2本の試験管に10%O型洗浄赤血球浮遊液1滴と患者血清5滴と新鮮正
  常血清を5滴を入れる(試験用)。別の2本の試験管に10%O型洗浄赤血球浮遊液1滴と新鮮正常血清を10滴加
  える(コントロール用)。試験用とコントロール用各1本ずつを0℃30分静置後、37℃30分静置。他の試験用
  とコントロール用各1本ずつを37℃1時間静置。4本の試験管を1000g,5分遠心し、冷却した試験用のみ溶血
  していればDL抗体陽性とする。

Reference
Issitt PD. Serological Diagnosis and Characterization of the Causative Autoantibodies.In: Chaplin H, ed. Immune Hemolytic Anemias (Methods in Hematology), Churchill Livingstone;1985.p35-37.

Petz LD, Garratty G. The serologic Investigation of autoimmune hemolytic anemia. In: Petz LD,Garratty G, editors. Immune Hemolytic Anemias. Philadelphia: Churchill Livingstone; 2004. pp 223–224.


Coombs陰性(温式)AIHA
 直接Coombs試験が陰性であったり、特異的Coombs試験で補体のみ陽性の場合でも、症状等から温式AIHAが疑
われる場合や他の溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG定量を行うとCoombs陰性AIHAと診断できるこ
とがある。
 Coombs陰性AIHAの大部分(8割以上)はCoombs試験感度以下のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、低親和性
IgG自己抗体がクームス陰性AIHAの15%程度に検出され, IgAもしくはIgM自己抗体がそれぞれ4%程度検出される。
試験管法Coombs試験が陰性の溶血性貧血例でAIHAを疑った場合は、カラム法Coombs試験を行うと検出感度が上
がり赤血球結合IgGを検出できる。さらに, 生食やLISS(low ion strength solution)で洗浄後の赤血球を用いてカラ
ム法Coombs試験を行うと、 低親和性IgG自己抗体による温式AIHAを診断できる。試験管法とカラム法の両Coombs
試験陰性例については、赤血球解離液を用いた間接Coombs試験や赤血球結合IgG定量を行うと診断できる。
(亀崎豊実: “貧血”の読み方・捉え方 2.実践編:貧血の検査データの読み方 症例B(溶血性貧血). Medical Technology 2018. )

DATNAIHA
         DAT: direct anti-globulin test: 直接Coombs試験、 LISS: low ion strength solution
Kamesaki T, Kajii E.: A comprehensive diagnostic algorithm for direct antiglobulin test-negative autoimmune hemolytic anemia
reveals the relative ratio of three mechanisms in a single laboratory. Acta Haematol., 140(1):10–17, 2018.


混合式AIHA
 温式AIHA(Coombs陰性AIHAも含む)と寒冷凝集素症(低力価CADを含む)が合併している場合は、混合型AIHA
の診断となる(Coombs陰性AIHAと寒冷凝集素症の合併も広義の混合式AIHAといえる)。


自己免疫性溶血性貧血診療の参照ガイド(平成26年度改訂版)

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